木の家ができるまで
Process
木の家ができるまでには、どのような人がどのようなことをしているのか。
「つくってきたもの」で紹介している「池内の家」を例に、木の家の建築過程をご説明します。
設 計
新築建物の設計を行うときは、図面を描くだけでなく必ず軸組模型を制作します。軸組とは柱や梁といった構造部材を組合わせたもののことをいいます。
当事務所が設計している建物では、室内において柱・梁などの構造部材の多くが現し(あらわし)で見えているため、軸組模型は建物の構造(強さ)だけでなく意匠(見え方)を検討するためにも欠かすことができないものです。
伐 採 1 / 5
設計において建築する建物が決まったら、使用する木材を準備します。
今回は、愛媛県の四国中央市新宮町の山に植えられている杉の木を伐採して使いました。
伐 採 2 / 5
斜面に生えている木をチェーンソーで切り、次の作業を行う斜面下の平らな場所までワイヤーロープで引っ張り下ろしてきます。
このあと一定の長さに切り揃えられて、同じ長さの丸太が幾つもつくられていきます。
伐 採 3 / 5
切られたばかりの丸太の切り口を触ってみる建主さんたち。
杉の木は斜面に立っているときに、水分を取り除いた木の重さの約1.5~2倍の重さの水分を含んでいるため、切ったばかりの切り口は湿っています。
伐 採 4 / 5
伐採現場には普通の自動車が通れる道が付いていないため、伐採した木材をキャタピラの付いた車に載せて、トラックが通行できる道路まで運んで行きます。
伐 採 5 / 5
迎えを待つ丸太たち。
このあと製材所に運んで、柱や梁として使用するために四角い形に製材します。
背割り
製材された材木が材木店に届いたので、大工さんが背割り(せわり)を入れています。
斜面に植えられていた木は上に伸びるために曲がるように成長しており、外側の反った方を「背」、内側を「腹」と呼びます。背にノコを入れて割るので背割りといいます。
乾燥時の収縮による割れが入るよりも先に背割りを入れておくことで、多くの箇所に割れが入って耐力が低下したり、見た目が悪くなることを防ぐという先人の知恵です。
乾 燥 1 / 2
材木屋さんにある乾燥小屋で材木を乾燥させます。
木を殺さないようにするという材木屋さんの考え方により、室温を40℃以下として約一ヶ月かけてゆっくりと乾かします。
乾燥小屋の側面の上部にはビニールが張られていますが、腰の部分は板張りにして木が呼吸できるようにしているそうです。
乾 燥 2 / 2
扉を開けて中を覗いてみると、材木が乾燥して背割りが開いたことにより変形しているのが分かります。
背割りを入れているおかげで、乾燥が進んでも他の部分に大きな割れは見られません。
製 材
乾燥を終えた後に、改めて四角い形に製材し直します。
きちんと乾燥できていれば、これから先に大きく変形することはありません。
低い温度で時間をかけてゆっくりと乾燥させているため、色つやが良く、いい香りが残っています。
木取り 1 / 2
棟梁(とうりょう)と呼ばれる建物づくりのまとめ役を担う大工さんが材木を一本ずつ確認して、家のどの部分に使用するのか決めていきます。これを木取り(きどり)といいます。
節の大きさや数の違い、赤身(あかみ)と呼ばれる虫や水に強い部分の割合い、そういった「見え方」と「強さ」を考え合わせたうえで、適材適所に配置するために木取りを行います。
木取り 2 / 2
見学に訪れた建主さんたち。
最初の感想は、木のいい香りがするということ。
実際に触れてみることで、見た目だけでは分からない「やわらかさ」や「暖かさ」を肌で感じることができます。
墨付け・刻み 1 / 2
木取りが終わると、大工さんが材木の加工を行います。
穴を掘ったり溝を入れたりする部分に、棟梁が墨で印を付けていきます。これを墨付け(すみつけ)といいます。
墨付けをした材木をノミやノコギリで加工していきます。これを刻み(きざみ)といいます。
墨付け・刻み 2 / 2
設計者がつくる軸組模型の縮尺は1/30ですが、大工さんがつくる模型は実寸大です。
構造部材同士が取合う箇所を仕口(しぐち)というのですが、仕口部分の検討を行うためのものなので、実寸大であり関係がない部分を省略した模型なのです。
地鎮祭 1 / 2
地鎮祭(じちんさい)では神主さんに来ていただき、神様に土地を利用させてもらう許しを得ると共に、工事の安全を祈る儀式を執り行います。
地鎮祭の時期は、工程の進捗状況により前後する場合があります。
地鎮祭 2 / 2
土地のお清めをする神主さんについて行く建主の子どもたち。
子どもたちはこのときのことを大きくなっても覚えているのかな。
建 前 1 / 3
材木の加工が終わったら現場に運んで組立てていきます。これを建前(たてまえ)といいます。
加工を間違えていると作業が止まってしまう場合があるため、大工さんにとっては組立て終えるまで緊張の時間が続きます。
建 前 2 / 3
材木の先端の出っ張りを枘(ほぞ)というのですが、枘を他の材木に開けられた穴に差し込み、込栓(こみせん)と呼ばれる木の釘で留めながら組立てます。
抜けにくくするために「きつく」つくってあるため、掛矢(かけや)と呼ばれる木槌で叩いて収めていきます。
建 前 3 / 3
実物大の軸組が姿を現しました。
柱と柱の間に木の板が通されているのですが、この板のことを貫(ぬき)といいます。家全体の柱の間を通して貫で繋ぐことで、地震の時に建物全体を一体的に揺らすことができます。
軸組内にたくさんある仕口や貫の接合部に摩擦を起こさせて全体で地震の力を吸収することで、建物が壊れにくいようにしているのです。
上棟式 1 / 2
軸組の一番上にある棟木(むなぎ)が上がったら、上棟式(じょうとうしき)を行います。棟上げ(むねあげ)を無事に終えられたことに感謝すると共に、この後の工事の安全を祈る儀式です。
棟梁によって神様への言葉が読み上げられる「祝詞奏上(のりとそうじょう)」が行われます。祝詞は棟梁の奥さんが書いたもので、字の達筆さに建主も驚かれていました。
上棟式 2 / 2
上棟式が終わったら記念撮影。
みんな、いい顔しています。
施工中 1 / 2
屋根に瓦が葺かれて、家の形がだいぶ分かってきました。
道路を挟んで向かいにある畑越しで建物を眺めると、舟が草原の中を進んでいるように見えてきます。
施工中 2 / 2
床、壁、天井。
構造材、下地材、仕上材、建具材、家具材。
家の色々なところに木が使われています。
植栽選び
家の完成が近づいてきたので、植栽を選びに植木屋さんを訪れました。
山採りしてきた樹木をいきなり市街地の庭に移植したのでは根付かないため、山と街の中間に位置する植木屋さんの土地に植えて慣らしてから、再び移植しているそうです。
建主の要望をもとに植木屋さんと事前に選定したおすすめの植栽を見て回り、庭に植えるものを決めていきます。
完 成
木の家の完成です。
出来上がったばかりの新しくて綺麗な姿もいいのですが、自然素材でつくられた家は時を重ねるにつれて味わいが深まっていくという経年変化を楽しめることが最もいいところだと思っています。
木の家づくりには様々な工程があり、そのひとつひとつに職人の知恵と工夫が詰まっています。
建主には、自分が建てる家の各工程を見学できるようご案内いたします。
都合が合うようでしたら、是非ご見学ください。
建物の完成写真は「つくってきたもの」のなかにある「池内の家」をご覧ください。